旧国鉄の客車が雪原を走るストーブ列車は、90年余り続く津軽の冬の風物詩。沿線には、太宰治記念館「斜陽館」など太宰治ゆかりの地も多い。レトロな趣と旅情を味わう、冬のローカル線の旅をご紹介。
旅情をしみじみ味わうのに、津軽鉄道のストーブ列車ほどぴったりな旅はないだろう。旧国鉄の客車は昭和レトロな趣たっぷり。駅員が硬券切符にパチンとハサミを入れるのも懐かしい。
車内では石炭をくべたダルマストーブが赤々と燃え、その上で炙ったスルメの香ばしい匂いが漂う。スルメをアテに一献傾ければ、心身に染みわたり、ガイドが繰り出す津軽弁の響きが温かい。窓の外に広がるのは見渡す限りの銀世界だ。
地吹雪が舞う雪原を走るストーブ列車は90年余り続く津軽の冬の風物詩。津軽弁トークを繰り広げる津軽半島観光アテンダントの名物ガイドも魅力だ。思い出すのは、金木村(現五所川原市)出身の作家・太宰治が、故郷を旅して書いた小説『津軽』。作中に登場する津軽人の「熱狂的な接待ぶり」は、アテンダントのぬくもりあふれるおもてなしと重なる。
津軽鉄道沿線には太宰ゆかりの地が多い。生家である太宰治記念館「斜陽館」や「太宰治疎開の家」は金木駅が最寄り。小説『津軽』で「のどかな駅」と描写された芦野公園駅の旧駅舎は、当時の面影を残す喫茶店となり親しまれている。
大人だからこそわかる郷愁と人々のぬくもり。冬のローカル線の旅でたっぷり味わいたい。
● 五所川原駅からホテルグランメール山海荘のある鯵ヶ沢駅へはJR五能線で30分。鯵ヶ沢では、ご当地グルメの鯵ヶ沢ヒラメのヅケ丼も味わいたい
●ヤマトシジミの産地で知られる十三湖へは、津軽鉄道津軽中里駅から車で15分
1.昭和5年(1930)12月から運転しているストーブ列車/2.ノスタルジックな雰囲気が漂う。スルメや地酒は車内販売で /3.スルメ700円はダルマストーブで炙ってくれる/4.レトロなたたずまいの津軽五所川原駅/5.竹編みのかごに入ったストーブ弁当1150円
津軽の雪原を走るローカル列車
つがるてつどうすとーぶれっしゃ
津軽五所川原駅〜津軽中里駅を約45分で結ぶ津軽鉄道。12〜3月には名物のストーブ列車が登場する。昔懐かしいダルマストーブを囲み、スルメや地酒を味わおう。予約をすれば、ストーブ弁当も購入可(3日前までに要予約、2個以上受付)。
(津軽鉄道)
乗車券+ストーブ列車券500円
30万年前の化石海水が天然温泉となった恵みの湯。和風と洋風があり、時間により男女入替制
オールインクルーシブでゆったりとした癒しの時間を
ほてるぐらんめーるさんかいそう
鯵ヶ沢駅からは車で約5分。露天風呂やラウンジからは雄大な日本海を、また背後には岩木山を望むことができ、海と山の眺望が自慢。料理は地産地消にこだわり、心を込めた郷土料理でおもてなし。夕食後に行われる津軽三味線の生演奏も人気。
津軽鉄道金木駅から徒歩圏内に点在する太宰治ゆかりの地。斜陽館や疎開の家など、当時の面影を残す建物は必見だ。基点となる五所川原駅周辺のみどころ、人気店にも立ち寄りたい。
1.約2200㎡の広大な敷地を誇る。総工費は現在の価格で7〜8億円ともいわれる/2.土間から美しい庭を眺められる /3.当時使われていたテーブルなどがある2階の洋間/4.囲炉裏を備えた板の間
太宰治が育った青森ヒバ造りの大豪邸
だざいおさむきねんかん「しゃようかん」
太宰生誕の2年前、明治40年(1907)に建てられた入母屋造りの邸宅。太宰が青森中学に進学するまでの少年期を過ごした生家で、戦後は旅館として使われ、平成10年(1998)に記念館となった。太宰の遺品や初版本、原稿など約600点を収蔵している。
寄木造りの床のサンルームをはじめ、贅沢な建築がみどころ
有名作品が次々と生まれた場所
だざいおさむそかいのいえ「きゅうつしまけしんざしき」
戦時中、東京と甲府の爆撃から逃れた太宰が、妻と子どもを連れて疎開した家。大正11年(1922)築の木造家屋で、当時は斜陽館の離れだった。作家になってからの太宰の居宅で、唯一現存する建物。『薄明』『パンドラの匣』など23作品を疎開中に執筆した。
散策途中の休憩にぴったりの落ち着いた空間。ギャラリーも併設
ふじりんごを使ったメニューが人気
あかいやねのきっさてん「えきしゃ」
太宰の小説に登場する旧駅舎を利用したノスタルジックなカフェ。フレッシュなふじりんごを使ったスリスリりんごカレー820円や、リンゴとコーヒーが調和したりんごジャムーン珈琲430円などを味わえる。建物は国の登録有形文化財。
1.4階までの吹き抜けの空間に立佞武多の現物を展示保存している/2.金魚の形をしたかわいい提灯、金魚ねぷたの制作体験も楽しめる /3.ギャラリーや体験工房、物産ホールなどが入る
五所川原名物の「立佞武多」を一年中楽しめる
たちねぷたのやかた
「ヤッテマレ!」のかけ声に合わせて巨大な山車「立佞武多」が練り歩く夏祭り「五所川原立佞武多」。同館では、実際に出陣している立佞武多を3台展示している。大型の立佞武多は最大で高さ約23mと迫力満点。立佞武多製作所では、11〜7月に新作の制作現場を見学できる。
注文後に揚げるため、アツアツを食べられる
おやつには五所川原の名物菓子を
あげたいのみせみわや
たい焼をさらに油で揚げた「あげたい」は、五所川原の名物おやつ。外はサクサク、中はふわっとした独特の食感を楽しめる。味は定番のあんこのほか、チョコ、カスタード、カレー、バーガーがある。
ホタテのかき揚げがスープにうま味とコクをプラスする
百年食堂の天中華はファン多し
かめのや
五所川原の人々に愛され続ける、創業100年以上の老舗そば店。豚ガラや野菜などでだしをとったスープに、ホタテのかき揚げをトッピングした天中華800円は必食。そのほか、カレー南蛮、ざるそばなどもおすすめ。