
「飛鳥・藤原の宮都」として、世界遺産登録を目指している飛鳥地方(明日香村・橿原市など)には、全国有数の古墳が数多く点在している。そのなかでも代表的な石舞台古墳の目前に、新たな宿が2025年7月にオープンした。厄除けで名高い寺院や、地元野菜にこだわるカフェやレストランも訪ねながら、歴史ロマン感じるひとり旅を満喫しよう。

JR東京駅から東海道新幹線のぞみで約2時間10分、京都駅下車、徒歩6分の近畿日本鉄道京都駅から特急で約50分、橿原神宮前駅で吉野線に乗り換え約5分、飛鳥駅下車
JR大阪駅から大阪環状線で約20分、天王寺駅下車、徒歩2分の近畿日本鉄道大阪阿部野橋駅から特急で約40分、飛鳥駅下車


近鉄飛鳥駅前からレンタサイクルを利用することもできるが、今回は公共機関と徒歩で巡る。大きな荷物は飛鳥駅のコインロッカーや宿泊先のブランシエラ 石舞台テラスに預けよう。牽牛子塚古墳は丘の上、益田岩船と酒船石遺跡は竹林の中にあり、夏場は暑さや虫よけ対策が必須だ。飛鳥駅や石舞台古墳の周辺にコンビニはなく、夜に営業している飲食店が少ないため、夕方以降も観光する場合は、事前に計画を練っておこう。



近鉄飛鳥駅に到着したら、まずは駅の西側の「牽牛子塚古墳」を目指す。丘の上に築かれた牽牛子塚古墳に到着すると、そこから奈良盆地を囲む山々を見渡すことができる。飛鳥駅付近まで戻ったら、明日香村産の食材にこだわる人気カフェ「Matsuyama Café」でランチにしよう。店内は落ち着いた雰囲気で、観光の合間にひと息つくのにぴったりだ。食後は電車を利用して岡寺駅へ移動し、そこから徒歩で「益田岩船」へ向かう。益田岩船は、いまも用途がわかっていないミステリアスな巨岩だ。再び飛鳥駅に戻ったら、路線バスに乗って「石舞台古墳」へ。バス停石舞台で降りると、徒歩すぐの場所に宿泊施設「ブランシエラ 石舞台テラス」があるので、先にチェックインを済ませておくと動きやすい。なお、ブランシエラ 石舞台テラス周辺には、徒歩圏内で気軽に行けるコンビニやスーパーはなく、夜に営業している飲食店が限られるため、夕食付きの宿泊プランを予約しておこう。

1.八角形をした牽牛子塚古墳は尾根の頂部にあり、周囲を一望できる 2.まるで舞台のように見える形状から名付けられた石舞台古墳 3.明日香村産の野菜にこだわった料理が自慢のMatsuyama café 4.ブランシエラ 石舞台テラスの宿泊者限定で利用できるラウンジ 5.竹林に覆われた場所にあり、木漏れ日が射し込む益田岩船

近鉄飛鳥駅前には、石舞台古墳方面に向かう路線バスの乗り場がある


1.墳丘全体が凝灰岩の切石で丁寧に装飾されている 2.地形模型が設けられており、牽牛子塚古墳の形状を立体的に把握できる
けんごしづかこふん
7世紀後半に築造された八角墳(八角形の古墳)。八角墳は飛鳥時代の天皇陵にのみ許された格式高い構造で、発掘調査の成果から、斉明天皇とその娘・間人皇女の合葬墓と考えられている。墳丘は白色の凝灰岩で復元整備され、内部の石室には二上山産の巨大な凝灰岩を丸ごとくり抜いた、横口式石槨(石造りの埋葬施設)が据えられている。
近鉄飛鳥駅から徒歩10分
奈良県明日香村越
見学自由 ※石室の見学は明日香村の観光ポータルサイトで要予約
見学自由
なし

牽牛子塚古墳は、『日本書紀』天智天皇6年(667)条に記される、斉明天皇と娘の間人皇女を葬った小市岡上陵(おちのおかのへのみささぎ)である可能性が高いとされる。というのも、発掘調査で30~40歳代の女性の歯が出土し、さらにこの場所が古代の越智(小市)に位置するためだ。なお、斉明天皇は大化改新の中心人物である天智天皇の母。


1.ランチメニュー1730円の一例。月替りのプレートで2種類から選べる 2.木造の店内には、木のテーブルや細いスチール脚の椅子が並ぶ 3.近鉄線の線路がすぐ目前を走り、窓際の席からは電車の往来を眺められる
マツヤマ カフェ
近鉄飛鳥駅から徒歩すぐの場所に店を構えるカフェ。築約80年の建物を、店主が半年かけてセルフリノベーションした温かみのある空間だ。ランチメニューはご飯またはパンのプレートから選べ、明日香村産の野菜をふんだんに使用した、ボリュームたっぷりの内容になっている。訪れる際は事前予約がおすすめ。


1.上面には方形に彫られた大きな2つの穴が残る 2.製作の途中で放棄されたために残された石ノミの痕
ますだのいわふね
近鉄岡寺駅近くの丘陵上に位置する、長さ約11m・幅約8m・高さ約4.7mの巨大な岩。上部には幅約1.6m・深さ約1.2mの方形穴が2つ並び、その周囲には浅い溝が刻まれている。周囲を竹林が取り囲む山道を5分程度歩くため、雨の日やその翌日は足元がぬかるみやすい。夏場は虫除けスプレーなどの防虫対策が欠かせない。

益田岩船の目的や用途については、文献などが残っていないため不明である。諸説あり、例えば次の3説が挙げられる。①弘法大師による巨大な石碑の台石、②占いをする台座、③横口式石槨(せっかく)の建造途中で放棄した、とする説だ。③の横口式石槨については、牽牛子塚古墳で使用する予定だったとする説もある。


1.石室に使用された石材全体の重量は約2300トンにも達する 2.古墳を覆っていた土が失われ、巨大な石室だけが残っている
いしぶたいこふん
7世紀初頭に築造されたと考えられる方墳(方形の古墳)で、明日香村を代表する古墳。巨大な横穴式石室が地表に露出しており、石室が露出した現在の姿はきわめて特異だ。この石室の内部は見学できる。被葬者は飛鳥時代の有力豪族・蘇我馬子とされ、その威勢は、長さ約7.7mにおよぶ石室を構成する巨石群からもうかがえる。
近鉄飛鳥駅から奈良交通バス橿原神宮前駅東口行きで約20分、石舞台下車、徒歩3分
奈良県明日香村島庄
300円(2026年4月1日から500円)
9~17時(入場は~16時45分)
無休
150台(有料)


1.コンパクトな空間で、ひとり旅の宿泊者に人気のRoom204 2.朝食の一例。奈良県産の米を炊いたご飯に合うおかずが揃う 3.約40年にわたり親しまれたレストランの跡地を再生した 4.スタイリッシュな洗面台。客室は洗練されたデザインで統一されている
ぶらんしえら いしぶたいてらす
2025年7月、石舞台古墳のほど近くに開業した宿。全5室の客室には広いテラスとハンモックが備わり、天井の高さと吉野桧の家具が温かな雰囲気をつくっている。オールインクルーシブ制を採用し、宿泊者は専用ラウンジで自由にドリンクを楽しめる。館内のレストランは、宿泊者以外も利用可能(朝食を除く)。
近鉄飛鳥駅から奈良交通バス橿原神宮前駅東口行きで約20分、石舞台下車、徒歩1分
奈良県明日香村島庄165-1
(1泊1名利用時)1泊2食付き2万8000円~、1泊1食付き2万1000円~、(1泊2名利用時1人当たり)1泊2食付き2万4000円~、1食付き1万7000円~
火・水曜
5台
ブランシエラ 石舞台テラスでは、明日香村に根ざした滞在が楽しめるように工夫が凝らされている。例えば、全客室にはテラスが備わり、明日香村の景色を眺めながらゆったりと過ごすことができる。また、レストランでは地元食材を活かした料理のほか、奈良県産の黒毛和種・大和牛や大和ポーク、大和肉鶏などを堪能できる。朝食は、奈良県産の米を炊いたご飯を中心に、素朴ながら心温まる和朝食が並ぶ。飛鳥の歴史と文化に浸りながら滞在を楽しもう。


「ブランシエラ 石舞台テラス」でじっくりと朝食を堪能した後、全国屈指の厄除け寺として知られる「岡寺」へ向かう。途中の島庄の町並みには古民家が点在し、カフェや醬油店など気になる店も多い。緩やかな上りの参道を進み、本堂に安置された日本最大の塑像(そぞう)・如意輪観音坐像(にょいりんかんのんざぞう)に参拝した後は、境内からの眺望や庭園散策を楽しもう。続いて徒歩で「酒船石遺跡」へ。用途が謎に包まれた石造遺構は、古墳とは異なる飛鳥の一面を感じさせる。その後は「奈良県立万葉文化館」を訪れ、展示や遺構を通じて、万葉の世界に浸ることができる。館内のカフェ&レストラン「CURRYON」では、明日香村産の野菜や果物を使ったカレーやスイーツを味わえ、散策の締めくくりに最適だ。徒歩だからこそ出合える景観を楽しみながら、明日香村の魅力をより深く楽しもう。

1.岡寺の受付付近に立つ仁王門(重要文化財)。慶長17年(1612)に建てられた 2.岡寺で販売されている厄除けお守り1000円 3.酒船石の上面は平坦になっており、楕円形や半円形、溝などが刻まれている 4.男女が歌を掛け合う歌垣を表した、奈良県立万葉文化館の展示 5.CURRYONは、明日香村産の野菜をふんだんに使ったカレーが自慢



1.高さ約4.85mにもおよぶ本尊・如意輪観音坐像は、奈良時代に造られた 2.境内で販売されている、やくよけぜんざい800円 3.起き上がり守 800円。龍は通年、午(うま)は2026年限定
おかでら
明日香村の東にある岡山の中腹に位置する、西国三十三所の第七番札所。創建は天武天皇2年(663)、僧・義淵僧正が開いたと伝わり、日本最初の厄除け霊場として知られる。本尊は日本最大の塑像(土の像)、如意輪観音坐像(重要文化財)で、「厄除け観音」として信仰を集める。春のシャクナゲ、秋の紅葉など四季の花も見どころだ。
近鉄橿原神宮前駅から奈良交通明日香周遊バスで24分、岡寺前下車、徒歩10分
奈良県明日香村岡806
入山料500円
8時30分~17時(12~2月~16時30分)
無休
30台

1.奥の院の「弥勒の窟」といわれる石窟堂に安置された弥勒菩薩座像 2.三重宝塔の軒先に吊るされた琴は、全国的に珍しい復元例(2001年復元) 3.三重宝塔付近から見た本堂。境内には遊歩道が整備されている


1.酒船石は、水を用いた祭祀施設の一部とする見解が有力 2.亀の甲羅に水が貯まるようになっている亀形石造物
さかふねいしいせき
7世紀後半に造られたと考えられる特異な石造物。上部が平らに加工された長さ約5.5m・幅約2.3mの花崗岩に、多数の浅いくぼみと、それらを結ぶ溝が刻まれている。用途は不明だが、かつては酒造施設と考えられていたことから「酒船石」と呼ばれてきた。周辺からは砂岩製の湧水施設のほか、舟形や亀形の石造物も見つかっている。
奈良交通バス万葉文化館西口バス停から徒歩3分
奈良県明日香村岡
亀形石造物300円※酒船石は無料
亀形石造物9~17時(12~2月は~16時。入場は閉場15分前)※酒船石は見学自由
亀形石造物12/29~1/3※酒船石は見学自由
なし

酒船石の存在は古くから知られており、例えば嘉永6年(1853)に刊行された『西国三十三所名所図会』には、現在とほぼ同じ姿で描かれている。平成11年(1999)度の発掘調査によって、酒船石がある丘陵のふもとから亀形石造物や湧水施設などが発見されたことから、天皇による祭祀が行われていたとする見解も示されている。


1.『万葉集』がよまれた頃の芸能のようすを人形で表した、一般展示室 2.万葉庭園には『万葉集』に登場する植物が植えられている 3.ミュージアムショップで買えるオリジナルの一筆箋各300円
ならけんりつまんようぶんかかん
『万葉集』を中心とした古代の文化に関する展示が揃う。一般展示室ではジオラマや映像によって『万葉集』がよまれた頃の文化を体感できる。さらに、発掘調査で確認された飛鳥池工房遺跡の復原展示や、資料閲覧が可能な万葉図書・情報室、ミュージアムショップ、憩いの空間として楽しめる万葉庭園などが併設されている。
近鉄飛鳥駅から奈良交通バス橿原神宮前駅東口行きで約25分、万葉文化館西口下車、徒歩すぐ
奈良県明日香村飛鳥10
無料(展覧会観覧は有料)
10時~17時30分(入館は~17時)
月曜(祝日の場合は翌平日)、展示替え期間
107台


1.明日香村産の朝採れ野菜を使った明日香野菜カレー1500円 2.大きなガラス窓からは万葉庭園が一望できる
カリオン
奈良県立万葉文化館内にあるカフェ&レストランで、旬の明日香村産の野菜や果物を活かした地産地消の料理を味わえる。看板メニューの明日香野菜カレーには、地元農家や産直施設から仕入れた新鮮な野菜を使用。彩り豊かな具材の甘みや旨みを活かした、軽やかな味わいに仕上がっている。
近鉄飛鳥駅から奈良交通バス橿原神宮前駅東口行きで約25分、万葉文化館西口下車、徒歩3分
奈良県明日香村飛鳥10
10時~16時30分LO
奈良県立万葉文化館に準ずる
107台(奈良県立万葉文化館駐車場を利用)




飛鳥地方をじっくりと歩くことで、古墳や石造物だけでなく、原風景を思わせる景観や、歴史の気配が漂う町並みをより深く味わえた。もちろん、古墳や石造物はここでしか見られないものばかりで、どれも圧倒的な存在感を放っている。とくに牽牛子塚古墳では、「白いピラミッド」越しに明日香村の景色を見渡すことができ、古代の人々が眺めていたかもしれない風景を思い浮かべながら、時を越えてつながれるような感覚を覚えた。