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『ノジュール』大人のひとり旅│小布施で北斎アートと栗三昧

長野県で一番小さな町・小布施。半径約2㎞の中に魅力が詰まっています。栗菓子と葛飾北斎ゆかりの地を巡るのはもちろん、魅力的な小径を散策するのもおすすめ。スマホを活用して、お気に入りの小径を探してみましょう。

長野電鉄小布施駅へのアクセス

[東京から]東京駅からJR北陸新幹線で約1時間45分、長野駅下車、徒歩すぐの長野電鉄長野駅から長野電鉄長野線で約35分、小布施駅下車 [名古屋から]名古屋駅からJR特急しなので約3時間、長野駅下車、以下同

美食とアートを巡る1泊2日のひとり旅

 長野電鉄長野駅から電車に揺られて小布施(おぶせ)駅へ。ホームに降り立つと、どこか懐かしい気持ちになったのは、栗の花の香りが出迎えてくれたからだろうか。小布施町は全国的にも知られる栗の里。町の南を流れる松川が造り出した酸性土壌の扇状地には、かつて見渡す限りの栗林が広がっていた。小布施の栗栽培は600年以上の歴史があるといわれ、江戸時代には将軍への献上品となるほどの名産品だったとか。ツヤがあり、はちきれんばかりに大ぶりの小布施栗は、栗好き垂涎の味わい。街には栗菓子の名店が軒を連ね、各店の味を長年競い合ってきた。今回の旅では、それらをじっくり食べ比べて自分のお気に入りの一品を見つけたい。

 小布施の旅で外せないもうひとつのテーマは、北斎アート。小布施出身の豪商であり、文人画家でもある髙井鴻山に招かれ、浮世絵師・葛飾北斎は83歳で小布施を訪れた。通算4度も江戸から足を運び、伸び伸びと筆を走らせた傑作がここ、小布施には数多く残っている。老いも忘れて絵に没頭できたのは、小布施だったからなのか? 晩年の北斎の足跡をたどるべく、まずは岩松院へ向かった。

1 小布施堂 本店のかき氷 栗あんソースは、夏に味わえる栗スイーツの代表格 2 桜井甘精堂 栗の木テラス 小布施店の名物・モンブラン。紅茶と一緒に味わいたい 3 老舗の酒蔵・桝一市村酒造場の裏手にある庭から酒造場の煙突をスマホでパチリ 4 小布施 寄り付き料理 蔵部では、桝一市村酒造場の唎(き)き酒セットが味わえる 5 北斎館と髙井鴻山記念館を結ぶ遊歩道・栗の小径。栗の木の間伐材が敷き詰められている 6 町内10カ所に点在する物語ボックス。小布施に古くから伝わる昔話を紙芝居のように楽しめる

北斎が描いた岩松院の天井絵『八方睨み鳳凰図』は、小布施旅行の目玉の一つ ©岩松院

北斎のみなぎる情熱と小布施栗の風味に感動

 文明4年(1472)に開創した寺・岩松院。小布施の旅のスタートにここを選ぶ人は多いだろう。その理由は、北斎が88歳から89歳にかけて描いた天井絵『八方睨み鳳凰図』があるから。椅子に座り、天井を見上げ、どこから見ても目が合う八方睨みの鳳凰と対峙する。一度も塗り替えられていない鮮やかな鳳凰図は、176年の時を経てもなお、北斎の情熱が伝わってくる。

 小布施の中心地へ戻り、向かった先は明治26年(1893)創業の栗菓子店・竹風堂 小布施本店。お目当ては、山家(やまが)定食だ。食してみると、誕生から50年以上経つ栗おこわの味は格別だった。極限まで甘さを抑えて仕上げた栗と、その甘さを生かす絶妙な塩加減のもち米との感動的なバランスをぜひ現地で。

 再び北斎の情熱を感じたく、北斎館へ。小布施に残る貴重な肉筆画を中心に、版本や錦絵など幅広く所蔵する北斎アートの美術館だ。まずは、企画展から鑑賞。順路に従い、北斎の画業の軌跡をたっぷり鑑賞した後で最後に登場するのが、北斎晩年の傑作の一つ、常設展の祭屋台天井絵だ。2台の祭屋台の天井に描かれた『龍図』『鳳凰図』は、そのデザイン性の高さや緻密さに見入ると同時に、この『鳳凰図』があの岩松院の天井絵以前に描かれ、着想を与えたかと思うと感動もひとしお。

 感動の余熱が冷めぬまま向かったのは桜井甘精堂 栗の木テラス 小布施店。こちらは、栗を自然のままに味わってほしいと栗菓子を作り続ける桜井甘精堂の姉妹店。先代が紅茶にのめり込み、紅茶と栗の洋菓子を提供する店をオープンさせた。桜井甘精堂と同じ栗あんをベースに作られるモンブランや焼き菓子は、桜井甘精堂のDNAをしっかりと受け継いでいる。

1 北斎が描いた天井絵『八方睨み鳳凰図』は21畳分の大きさ。伝説の霊鳥・鳳凰の体からは松や月桂樹などが茂る 2 入ってすぐに出迎えてくれるのが、山門に立つ仁王像。親しみやすい姿は、おみくじになるほどの人気ぶり 3 岩松院と北斎との縁をつないだ文人画家・髙井鴻山の書『無』。本堂内で鑑賞可能

岩松院

がんしょういん

住所

長野県小布施町雁田615

時間

9時~16時30分(11月は~16時、12~3月は9時30分~15時30分)

休業日

2024年は9月23日、12月8日

料金

500円

交通

長野電鉄小布施駅から車で約10分、または小布施駅前から小布施町内周遊シャトルバス·おぶせロマン号で約25分、岩松院入口下車、徒歩6分(バスは9月8日までの金·土·日曜、祝日、お盆、9月9日~11月24日の毎日運行。11月25日〜は冬期運休)

パーキング

20台

【スマホ決済】iD、QUICPay、Visaのタッチ決済、Suica、PASMO

※本堂内は撮影禁止

1 山家定食2310円。栗おこわや黒姫山の伏流水で育ったにじ鱒の甘露煮、完熟リンゴのジュースなど長野県産食材が満載 2 栗粒あんが入ったどら焼山1個280円は、おみやげにおすすめ 3 食事・喫茶は2階で。開放的な窓からは、心地のいい日差しが注ぎ込む

竹風堂 小布施本店

ちくふうどう おぶせほんてん

住所

長野県小布施町小布施973

時間

8~18時(飲食は10時〜)

無休

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩8分

パーキング

70台(30分無料)

【スマホ決済】iD、VISAのタッチ決済、Suica、WAON、楽天Edyなど

席数

カウンター席0席、2人掛け席0席

1 桜井甘精堂自慢の栗あんをたっぷり使ったモンブラン520円。秋には新栗バージョンに変身する 2 モンブラン専用にブレンドされた栗の木テラス オリジナルティー700円は、すっきりとした味わいが特徴 3 栗を洋菓子でも楽しめるようにと洋館風に造られた店内。モンブランはテイクアウトも可能

桜井甘精堂 栗の木テラス 小布施店

さくらいかんせいどう くりのきてらす おぶせてん

住所

長野県小布施町小布施784

時間

10時~17時30分(17時LO)

休業日

水曜

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩8分

パーキング

60台(有料)

【スマホ決済】楽天ペイ、LINE Pay、PayPay、メルペイ、d払いなど

座席数

カウンター席0席、2人掛け席0席

1 祭屋台が2台並ぶ常設展示室。祭屋台の天井絵はレプリカで下に展示されているものが本物 2 新千円札の裏面に採用されて話題の版画『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』。生涯を絵に捧げた北斎の探究心や向上心を感じさせる代表作の一つ ©北斎館 3 街の中心地に位置する北斎館では、トイレを無料で貸し出している 4 ミュージアムショップで人気の京友禅アロハシャツ。北斎の最晩年の作品といわれる『富士越龍』柄4万6200円は新作。ほかにも多数のオリジナルグッズあり

北斎館

ほくさいかん

住所

長野県小布施町小布施485

時間

9~17時(入館は~16時30分)

休業日

無休

料金

1000円

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩12分

パーキング

58台(有料)

【スマホ決済】iD、Visaのタッチ決済、Suica、LINE Pay、PayPayなど

蔵で堪能する日本酒と静かな夜のひととき

 ディナーをいただくために小布施 寄り付き料理 蔵部へ向かう。「寄り付き」とは、酒蔵で働く蔵人たちが寝泊まりをしながら酒を造り、休息し、食事をする場所のこと。築約270年のその場所をモダンに改装した空間は、建物の随所に歴史が感じられる。「おひとりさまにもおすすめです」と店長が供してくれたのが、信州の清流で育った信州大王イワナと信州サーモンのお造りをのせたひと皿。棟続きの造り酒屋・桝一市村酒造場の代表銘柄が並ぶ唎き酒セットとともにちびり、ちびりと楽しむ。信州大王イワナのなめろうを半分味わったところで、同じくイワナの骨からとっただしとともに羽釜で炊いた、イワナときのこの炊き込みご飯と味噌汁のセットが運ばれてきた。定食のおかずとご飯を時間差で提供してくれるとは、こまやかな気遣いを感じる。

 ほろ酔い気分になったところで今宵の宿、桝一客殿へ。12室ある客室はすべてシングルユースが可能。ひとり読書を楽しんだり、旅日記もしたためたりしたくて、デスクのある書斎タイプの部屋をチョイス。移築された蔵をそのまま客室にしていて、静けさは格別。極上の静かな夜を楽しんだ。

 翌朝は宿から徒歩2分の傘風楼で、宿泊客専用の朝食メニューをいただく。小布施の平飼い鶏の卵料理が自慢で、そのほかオブセ牛乳や季節のフルーツジャム、自家製パンなど地産地消の新鮮な食材を堪能。食後のデザートに、販売コーナーで人気の栗アイスクリームも味わい、口福な朝を迎えた。

 続いて向かったのが、髙井鴻山記念館。小布施の豪商・髙井鴻山が北斎をはじめ、多くの文人墨客を江戸から招いた書斎兼サロン・翛然楼(ゆうぜんろう)や穀蔵を展示室としたミュージアムだ。文人画家でもあった鴻山直筆の絵や書を鑑賞するのはもちろん、北斎が半年滞在した京風建築に武家屋敷の要素も秘めた翛然楼をひとりじっくり見学するのも楽しい。

1 信州サーモンと信州大王イワナのお造り 信州大王イワナのなめろう付き3520円。魚は長野のブランド魚 2 本日の唎き酒セット2200円。桝一市村酒造場の3銘柄を日替わりで提供 3 板場の中にある大きな竈(かまど)が見えるカウンター席。ひとりでも気兼ねなくくつろげる 4 ワイン愛好家垂涎の小布施ワイナリーのワインもグラスで提供している

小布施 寄り付き料理 蔵部

おぶせ よりつきりょうり くらぶ

住所

長野県小布施町小布施807

時間

11~22時(20時LO)

休業日

無休

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩10分

パーキング

58台(北斎館東町駐車場を利用、有料、割引あり)

【スマホ決済】iD、QUICPay、Visaのタッチ決済、Suica、PASMO

席数

カウンター席14席

1 みどころが集まる街の中心に立つホテルは、旅の拠点に最適。早めに荷物を預けて観光へ 2 長野市の土蔵を移築してリノベーションした客室。天井の立派な梁や小さな窓に蔵の名残を感じる 3 宿泊客が24時間利用できるライブラリー。本を持ち出して客室でゆっくり読むことも可能

桝一客殿

ますいちきゃくでん

住所

長野県小布施町小布施815

時間

チェックイン/アウト 15時/12時

料金

1泊朝食付4万700円〜

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩11分

パーキング

10台

【スマホ決済】QUICPay、Visaのタッチ決済、Suica、楽天ペイ、PayPay

1 メインの卵料理は5種から選べる。写真は人気のエッグ・ベネディクト 2 小布施堂 本店の系列店、傘風楼。入口のロビーでは小布施堂 本店の栗菓子を販売 3 長野県産フルーツで作る季節のジャム。この日はアンズと白桃 4 小布施の牛乳と小布施堂 本店の栗あんをたっぷり使った栗アイスクリーム1個389円

傘風楼

さんぷうろう

住所

長野県小布施町小布施500

時間

朝食7時30分~11時、売店9~17時

朝食は桝一客殿に宿泊客のいない日。売店は無休(冬期休業あり)

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩12分

なし

【スマホ決済】QUICPay、Visaのタッチ決済、Suica、楽天ペイ、PayPay

席数

朝食時カウンター席0席 ※朝食は桝一客殿の宿泊客のみ利用可能

1 翛然楼の2階は書院造りになっている。北斎や勝海舟らが囲んだ火鉢は、今も健在だ 2 京都や江戸に遊学した後、小布施に戻ってからも精力的に書物を収集していた鴻山。その書物を保管していた文庫蔵が展示室になっている 3 鴻山の姿を唯一残す、三畠上龍作の『髙井鴻山肖像画』

髙井鴻山記念館

たかいこうざんきねんかん

住所

長野県小布施町小布施805-1

時間

9~17時(入館は~16時30分)

休業日

12月29日〜1月3日、展示替えなどによる臨時休館日

料金

300円

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩10分

パーキング

7台

【スマホ決済】不可

小布施の新旧美食探訪で旅を締めくくる

 髙井鴻山の知性や美学に触れた後は、2023年オープンのレストラン・洋食あおいでランチをいただく。海外や県内の名店で研鑽を積んだ小布施出身のシェフが作るのは、牛すじを3日間煮込んで作るデミグラスソースをかけたオムライス。エビ・ホタテ・ビーフの3種が贅沢に入ったオムライスは珍しい。その理由を尋ねれば、惜しまれつつ閉店した近所の人気洋食店の味を引き継いだのだとか。「洋食店が少ない小布施で、みんなに愛されていた味を残したかった」とシェフが教えてくれた。贅沢具材のオムライスには、地元へのリスペクトや愛が詰まっていた。

 この旅の最後を飾るのは、小布施に多くの栗スイーツファンを呼んでいるショップ&レストラン・小布施堂 本店。明治後期に創業した栗菓子店に始まり、現在では桝一客殿や傘風楼など周囲に複数の系列施設が点在するほどに。なかでも小布施堂 本店の名を一躍有名にしたのが、秋限定で提供される栗の点心 朱雀。とれたての新栗を蒸して丁寧に裏ごしし、店自慢の栗あんにふんわりと盛り付けた大人気スイーツだ。加糖しない蒸し栗は、その年の新栗をそのまま味わえるとあり、全国から多くのファンが駆けつける。年々、人気が過熱し、現在では、オンライン予約のみでの提供となっている。

 夏の必食スイーツは、秋仕込みのねっとりと甘い自家製栗あんソースと栗あんを器の中と氷の上に贅沢にのせた、かき氷 栗あんソース。栗あんと氷を口に運べば、涼を誘いながらも、来たる新栗への期待感も刺激され、秋にまた来なければ! と決意までさせられる、なんともニクイ逸品だった。

1 季節の食材を使った前菜が付くランチセット オムライス(ドリンク付き)2500円 2 2つの蔵をつなぎ合わせた部分がエントランスになっている 3 天井が高く、立派な蔵の梁が残されている店内。オムライスのほか、ミックスフライや自家製デザートもおすすめ。営業は夕方まで

洋食あおい

ようしょくあおい

住所

長野県小布施町小布施801-1

時間

11~16時(ランチは~14時LO)

休業日

水・木曜

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩10分

パーキング

なし

【スマホ決済】iD、Visaのタッチ決済、Suica、PayPay、d払いなど

席数

カウンター席2席、2人掛け席3席

1 小布施堂 本店の秋の風物詩・栗の点心 朱雀2000円。新栗だから叶う、加糖しない味わいは必食 2 かき氷 栗あんソース1500円。てっぺんに鎮座する栗あんと栗あんソースがたっぷり。今期の提供は9月6日まで 3 店内1階のイートインスペース。落ち着いた和モダンなインテリアがおしゃれ 4 入口を入ってすぐにある栗菓子販売コーナー。持ち帰るのが荷物になるなら、地方発送も可能 5 小布施を代表する老舗らしい堂々としたたたずまい。入口にかかるのれんを目印に、連日多くの客が訪れる 6 栗あんに信州の水を加えた夏におすすめの涼菓・水栗羊羹1個400円

小布施堂 本店

おぶせどう ほんてん

住所

長野県小布施町小布施808

時間

9~17時(食事は11~15時、喫茶は10~16時)

休業日

無休

交通

長野電鉄小布施駅から徒歩9分

パーキング

5台

【スマホ決済】QUICPay、Visaのタッチ決済、Suica、楽天ペイ、PayPay

席数

カウンター席0席

『ノジュール』2024年8月号

50代からの旅と暮らし発見マガジン『ノジュール』。8月号の大特集は「スマホをお供に、ひとり旅」で、小布施のほか、盛岡、山口、富山のひとり旅プランをご紹介。また、マップ・ルート検索、スマホ決済、タクシーアプリやシェアサイクルアプリなど、ひとり旅をより快適にするスマホ活用術もわかりやすく解説する。

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文=山田裕子(editorial team Flone) 写真=日高奈々子 ●このページは『ノジュール』2024年8月号のコンテンツを元に作成しています。 ●掲載のデータは2024年6月取材時点のものです。料金、営業時間、定休日、メニュー等の営業内容が変更になることや、臨時休業等で利用できない場合があります。 ●料金は原則として取材時点で確認した消費税込みの料金です。また、入園料などは、特記のないものは大人料金です。 ●定休日は原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウイーク・臨時休業を省略しています。 ●利用時間は原則として開店(館)~閉店(館)です。ラストオーダーや入店(館)時間は、通常閉店(館)時刻の30分~1時間前ですのでご注意ください。ラストオーダーはLOと表記しています。 ●温泉の泉質・効能等は、核施設からの回答をもとに原稿を作成しています。 ●宿泊施設の料金は、特に記述のない場合は、通常期、1泊2名利用時の1名分を、諸税、サービス料込みで掲載しています。