静岡県には4つの一の宮が存在する。なかでも代表的なのが富士山麓の神、伊豆国魂の神として朝廷からの崇敬が篤かった三嶋大社。もうひとつは富士山の噴火を鎮めるために創建された富士山本宮浅間大社。三島、富士宮から、さらにひと足延ばして掛川へ。事任八幡宮や小國神社も巡りたい。
▶︎JR三島駅へのアクセス
[東京から]JR東京駅から東海道新幹線こだまで約55分、三島駅下車
[大阪から]JR新大阪駅から東海道新幹線ひかりで約2時間10分、三島駅下車
1.逆さ富士をイメージした静岡県富士山世界遺産センター。敷地内にあるのは富士山本宮浅間大社の一之鳥居/2.凜とした空気が漂う三嶋大社客殿の廊下/3.駿河湾の波と富士山、昇る太陽が描かれた富士山本宮浅間大社の絵馬/4.富士山本宮浅間大社の楼門から朱色が華やかな拝殿を見る
伊豆半島の付け根、静岡県三島市に古くから鎮座する三嶋大社。その創建時期は不明だが、平安時代中期にまとめられた『延喜式神名帳』では、伊豆国の神社92座の筆頭に記載されている。御祭神は山森農産の守護神である大山祇命(おおやまつみのみこと)、福徳の神である積羽八重事代主神(つみはやえことしろぬしのかみ)。二柱を総じて三嶋大明神と奉称している。
13歳で流刑となり伊豆で過ごした源頼朝が、源氏の再興を願って三嶋大社に百日詣の祈願をし、成就したことは有名な話。壇ノ浦の戦いで平氏を倒すと、戦勝はひとえに三嶋大明神の御加護によるものと篤く信仰し、鎌倉幕府を開くと祭事の復興、社殿の造営を行い、幕府の守護神として仰いだ。以来、武門武将の崇敬を広く集めた。
旧東海道(県道22号)に面した大鳥居に一礼して参道を進むと、両脇に深い緑色の水を湛えた神池(しんち)が広がり、賑やかな市街地から一気に神聖な気配に包まれる。池の中ほどに祭られている朱色の小さな神社は、頼朝の妻・北条政子が勧請したと伝えられる厳島神社。どっしりとしたしめ縄が付いた総門を通り抜け、手水舎で身を清めたら神門をくぐり本殿へ向かう。
三嶋大社は本殿、幣殿、拝殿と、3つの建物が連なる複合社殿で、国の重要文化財に指定されている。本殿の高さは16mにも及び、東海地域の古建築社殿としては最大級だ。本瓦形銅板葺屋根に、塗りを施さない総ケヤキ素木造りの建物が堂々として美しい。
約1万5000坪の広さがある境内には、摂末社や頼朝にゆかりの史跡も点在。また、宝物館では北条政子が奉納したと伝わる梅蒔絵手箱(復元品)などが展示されている。時間をかけてゆっくり参拝したい。散策に疲れたら、境内にある茶店で縁起餅・福太郎を食べて一服しよう。
1.舞殿(ぶでん)に立つ巫女の向こうに堂々とした御殿が見える。現在の建物は慶応2年(1866)に完成したもの。国の重要文化財に指定されている/2.神池の中ほどにある厳島神社/3.源頼朝と北条政子が源氏再興のため百日詣の祈願をした際に休息したと伝えられている腰掛石。実際に座ることができる/4.駅から歩くと少し遠回りになるが、大鳥居から入って参拝するのがおすすめ/5.参拝の際には上部にも目を向け、精巧な彫刻を眺めたい/6.敷地内の神鹿園/7.毎朝神様を乗せて箱根山を登るという伝説がある神馬を祭る神馬舎(しんめしゃ)/8.宝物館内部。鎌倉時代の参拝風景がジオラマで再現されている
伊豆国一の宮
みしまたいしゃ
JR三島駅から徒歩15分、または伊豆箱根鉄道三島田町駅から徒歩7分
静岡県三島市大宮町2-1-5
無料(宝物館は500円)
参拝自由(社務所は8時30分ごろ~16時、宝物館は9~16時)
無休(宝物館は不定休)
65台(有料)
(い)円が重なる七宝柄の生地に、金糸で三嶋大社の社紋である五七桐の刺繡を施した開運御守800円(ろ)まばゆい黄金の地に、金糸で五七桐や稲穂を刺繡した金運守600円(は)鯛の形で恵比寿様の御加護を授かることができる健康幸せお守り・めでたい守800円 (に)神門の手前にある客殿で直書きしてもらえる御朱印。初穂料500円
1.境内にある茶店で食べることができるこし餡とヨモギの草餅・福太郎。お茶付き250円/2.おみやげ用は1箱(12個入り)1200円
ふくたろうほんぽ
JR三島駅から徒歩15分、または伊豆箱根鉄道三島田町駅から徒歩7分
静岡県三島市大宮町2-1-5 三嶋大社境内
8時~16時30分(土・日曜、祝日は~16時45分)※店内飲食の入店は閉店30分前まで
無休
65台(三嶋大社の駐車場を利用・有料)
三嶋大社に参拝した後は、ウナギを食べると決めていた。この一帯では、富士山の伏流水にウナギをさらし、泥臭さを抜くことでおいしいウナギを提供するといわれている。訪ねたのは三島駅のすぐ近くにあるうなぎの坂東。定番のうな重にも心惹かれるが、今回はさまざまな食べ方が楽しめる、ひつまぶしを注文。待つことしばし。ふっくらと焼き上げられたウナギが、お櫃に入って運ばれてきた。
まずしゃもじで4等分にして茶碗によそう。1膳目はそのまま蒲焼で味わう。2膳目は三つ葉、ワサビ、海苔などの薬味を入れて。3膳目はだし、あられを入れてウナギ茶漬けで。最後はお好みの食べ方で。どの食べ方もおいしいが、料理長こだわりの紀州産ぶどう山椒をかけて食べるのもいい。
食後は三島から富士宮へ移動。富士宮では静岡県富士山世界遺産センターを訪ねた。まず逆さ富士をモチーフにした外観に圧倒されるが、その内部を螺旋状に歩きながら、富士登山を疑似体験できる展示が楽しい。
宿泊は富士山本宮浅間大社まで徒歩わずか2分という立地の割烹旅館 小川荘に。昭和レトロな雰囲気が漂う館内は、外国人ゲストにも人気だとか。貸切りで利用できる屋上の展望風呂からは富士山が見える。
今回、旅館では朝食のみをお願いし、夕食は天ぷらとワインのお店 むらせを予約。カウンターでひと品ずつ、職人が揚げる天ぷらをいただくのは最高の贅沢。イタリア料理の経験が豊富な店主が揚げる天ぷらは、地元産の野菜やチーズ、牛肉などを主体としたもの。前菜から始まるコース仕立てになっていて、締めはかき揚げとご飯、天丼、天ばら、天茶から選ぶことができる。厳選されたグラスワインとともに味わい、この至福の時は今日の参拝の御利益なのかもと思う。
1.ふっくらと焼き上げたウナギを薬味やだし茶漬けなどで味わえる、ひつまぶし4620円/2.端正な和の空間。ひとりでもゆったりできるカウンター席とテーブル席がある
うなぎのばんどう
JR三島駅から徒歩1分
静岡県三島市一番町15-28 楓ビル2階
11時~20時30分(売切れ次第終了)
不定休
30台(提携駐車場を利用・有料(3000円以上の食事で1時間サービス券発行))
1.展示棟内部は壁面に投影される富士山にまつわる映像を見ながら、全長193mの螺旋スロープを歩くことで、富士登山を疑似体験できる/2.最上階の展望ホール。天気に恵まれれば、正面に富士山を望むことができる/3.巨大な逆さ富士を覆う木格子には、地域のブランド材「FUJI HINOKI MADE」が使用されている
しずおかけんふじさんせかいいさんせんたー
JR富士宮駅から徒歩8分
静岡県富士宮市宮町5-12
常設展300円
9~17時(7・8月は~18時)※入館は閉館30分前まで
第3火曜、12月27~31日、施設点検日(詳細は公式HPを確認)
なし
1.ロビーに飾られている富士山の額は、日本画家・片岡球子さんの作品をプリントした風呂敷を額装したもの/2.二間続きの離れの客室「月」。築80年以上の建築で、障子や襖など建具の細工が美しい/3.屋上にある貸切露天風呂/4.オーソドックスでありながら、満足度の高い朝ご飯
かっぽうりょかん おがわそう
1.おまかせの天ぷらコースは5000円~。前菜、車海老・野菜5~6品・牛肉の天ぷら、かき揚げの食事、デザートが付く。写真は柿とチーズ、富士山岡村牛のランプ、黒松ファームのナメコの天ぷらなど。グラスワインは700円~/2.前菜の一例。柿と七富チーズ工房のモッツァレラ、富士山岡村牛の生ハムとグリッシーニ、白ナスのポタージュ/3.店主の村瀬さんが揚げる天ぷらは、薄衣でカラリ。何品でも食べられそうだ
てんぷらとわいんのおみせ むらせ
古来、富士山は霊山として人々の信仰を集めてきたが、同時に噴火を繰り返す恐ろしい山でもある。社記によると第7代孝霊天皇(紀元前290~前215年ごろ)の時代に富士山が大噴火を起こし、周辺地域は荒廃した状態が続いた。その後、富士山の麓に浅間大神(あさまのおおかみ)を祭ったところ、噴火が鎮まったことから、富士山を御神体とする浅間信仰が広く伝承された。浅間大神は日本神話に登場する木花之佐久夜毘売命(このはなのさくやひめのみこと)のことで、燃えさかる産屋の中で出産したという逸話をもつ女神だ。
当初は社殿などはなかったが、大同元年(806)、平城天皇の命により壮大な社殿が造営されたという。それが、現在の富士山本宮浅間大社で、全国に約1300社ある浅間神社の総本宮である。
楼門をくぐると正面に拝殿、その奥に空高く伸びる本殿の千木(ちぎ)や鰹木(かつおぎ)が見える。朱で彩られた壮大な社殿の中では祈禱が行われているのか時折ドーン、ドーンと太鼓の音が響き、巫女が行き交う。厳かでありながら華やかさもある空気感に惹き付けられる。
参拝を終えたら、東脇門を出て湧玉池(わくたまいけ)へ。毎日、約20万tもの富士山の伏流水が湧き出ている湧玉池は、かつては富士登山に向かう人々が霊水で身を清める禊(みそぎ)の場であった。現在は澄みきった水に水草がそよぎ、カモが遊ぶ風景が見られる。
参拝の後に立ち寄りたいのがお宮横丁。屋外型のフードコートで、ご当地グルメの富士宮やきそばや静岡おでんなどが味わえる。
水清き処は酒うまし処とよくいわれるが、富士山の伏流水を仕込み水として天保元年(1830)より酒造りを行う富士高砂酒造へも出かけよう。酒蔵見学では、蔵の屋根裏で8体もの仏像を見るという稀有な体験ができる。明治初期の廃仏毀釈のときに、富士山頂にある浅間大社奥宮から運び出し、蔵の屋根裏にかくまった仏像が今でも祭られているのだ。蔵見学の後は利酒を楽しみ、おみやげにここでしか買えない蔵元限定酒を買って帰ろう。
1.艶やかな朱で彩られた楼門や社殿は、関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康が、お礼として慶長9年(1604)に造営/2.境内の絵馬掛けには願いや目標が書かれた絵馬が、ぎっしりと掛けられている/3.浅間造りとよばれる他に類を見ない様式の本殿。国の重要文化財に指定されている/4.富士山の伏流水が湧き出る湧玉池のほとりには、水屋神社が立っている
駿河国一の宮
ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ
JR富士宮駅から徒歩10分
静岡県富士宮市宮町1-1
無料
6~19時(4〜9月は5~20時、3・10月は5時30分~19時30分)
無休
110台(有料※30分無料、御祈禱を受けた場合は2時間無料)
(い)開運を祈願する貝を使った華やかなお守り・開運貝守各1000円(ろ)富士山の形になっていて桜の刺繡が施された咲良守1000円(は)緋色の生地に富士山が刺繡された袋守(富士山)1000円(に)金色で富士山が描かれている御朱印の一例。初穂料500円
1.手前から「B-1グランプリ」で人気の富士宮やきそばアンテナショップの富士宮やきそば600円、大吉屋の静岡おでん6点盛り700円。ご当地飲料も販売されている/2.富士宮のグルメが集まるお宮横丁。広場の中央には湧水が飲める井戸がある
おみやよこちょう
(富士宮やきそばアンテナショップは0544-22-5341、大吉屋は0544-25-2061)
JR富士宮駅から徒歩9分
静岡県富士宮市宮町4-23
店舗によって異なる(富士宮やきそばアンテナショップは10時~16時30分LO、大吉屋は10~16時)
店舗によって異なる(富士宮やきそばアンテナショップは無休、大吉屋は不定休)
なし
1.蔵元限定販売。右から裏高砂 純米大吟醸生原酒つるし取り四番720㎖6000円、裏高砂 純米吟醸生原酒 令和誉富士720㎖1800円/2.搾った日本酒を貯蔵する蔵の屋根裏に、8体の富士山下山仏が祭られている/3.富士山本宮浅間大社の西側にある富士高砂酒造。外には杉玉が掛けられている
ふじたかさごしゅぞう
JR西富士宮駅から徒歩7分
静岡県富士宮市宝町9-25
酒蔵見学無料
売店は9~17時(土・日曜、祝日は10時~17時30分)、酒蔵見学は平日の前日までに要予約
1月1・2日
10台